【ベランダから始まる新生活】25年ぶりの日本での生活、家族と育てる小さな命

2025年春。
新しい生活の舞台となったのは、市内のマンション。近接する高い建築物がなく、最上階ということもあり、日当たりがとても良く、気持ちのいい部屋です。

「そうだ、植物を育ててみよう」

植物を迎える準備と、母のアドバイス

とはいえ、ガーデニングの経験はゼロ。そんな私たちにとって頼りになるのは、やはり“母”の存在でした。

電話で相談すると、「最上階で陽当たりがいいのなら、育てやすい植物を選べばいいのよ」とのこと。植物との付き合い方を一つひとつ丁寧に教えてくれました。

そして迎えた週末。妻と二人で近所のホームセンターへ。整然と並ぶ色とりどりの花々、香りの良いハーブ類。選んだのは、目を惹く鮮やかな色合いのケイトーと、料理にも活躍してくれるバジル、そして香り高く育てやすいローズマリー。

はじめての植え替え体験

母からの助言通り、ケイトーとバジルはプランターへ、ローズマリーは通気性の良い鉢へと、それぞれ植え替えました。

植え替えの際には「最初は土にたっぷり水をやること」との教えをしっかり守り、ジョウロで惜しみなく水を注ぎました。小さな苗たちが、土の中で新しい生活を始めるのを見守るような気持ちで、その夜は静かに過ごしました。

植物との「付き合い方」

ところが——数日後、異変が。

3株あったケイトーのうち、真ん中の一株が徐々に元気を失い始め、バジルも10本ほどあった苗のうち半数の葉がしおれてきたのです。

母に電話すると、「水のやりすぎね」とバッサリ。

「経験の少ない人は、水をやらずに枯らすより、水をやりすぎて枯らす方が多いのよ」

確かに私たちは、「表面の土が乾いたら水やりを」と言われていたのにも関わらず、2日に一度のペースでせっせと水を与えていました。

そんなとき、経験のない妻からぽつりと一言。

「植物って、水だけじゃなくて、ちゃんと“愛情”を持って接しないとダメなのよ」

言われてみれば、その通り。

どこかで「とりあえず水をあげれば育つだろう」と考えていた自分の姿勢を、深く反省しました。命あるものと向き合うということは、日々の小さな変化に気づき、丁寧に応えていくこと。植物もまた、家族の一員なのだという意識が芽生えた瞬間でした。

小さな学び、大きな喜び

その後、枯れかけたケイトーは残念ながら回復しませんでしたが、バジルは半分ほどが持ちこたえ、ローズマリーは今も青々と元気です。香り高いその葉は、大きく育った後に、我が家の夜の食卓で、料理に爽やかなアクセントを添えてくれることでしょう。

植物と過ごす時間は、思いのほか豊かです。

朝、ベランダに出て、都会では見られない鮮やかなケイトーの色を目にし、葉に触れ、水をやる。晴れた日は日差しを浴びながら、成長を確認する。小さな葉が新しく生えているのを見つけたときには、なぜか気分がよくなる。

ガーデニングとは、結果よりも「その過程を楽しむこと」にこそ、醍醐味があるのかもしれません。

再びホームセンターへ

母からは、「梅雨入り前にもう一度、追加で苗を植え替えておくといいわよ」との助言が。妻も「次こそは愛情いっぱいで育ててね。」と。
新生活に、植物という名の彩りを
25年ぶりでの日本での新生活。慣れないこと、戸惑うことも多いけれど、こうして家族と一緒に小さな命を育てる時間が、何よりも「日常」に根づき始めています。
ベランダという限られた空間でも、心の中に芽吹くものは無限です。これからどんな季節が巡っても、植物とともに、少しずつこの土地で根を張っていきたい。そんな気持ちで、今日も水をひとしずく——